今日から新年度が始まる。
僕は学年が上がり、修士2年生になった。
ちょうど2年前、今もお世話になっている研究室に新人卒論生として配属されたわけである。
2年前には修士2年の先輩が随分と頼もしい存在に見えたが、いま自分がその立場になってみるとどうだろう、頼りになるかは別として、年だけはすぐとってしまうのだという感想しか出てこない。
先週は日本大学(船橋)で開催された日本化学会に4日間参加していた。
僕も昨年に引き続き口頭発表をさせていただいた。
発表は先日Angewandte Chemie誌にアクセプトされた研究に基づいていたから、準備・質疑応答は気楽なものだった。
この研究内容について外部でプレゼンをするのはもう5回目くらいである。
論文を通す際にはAngew.誌の査読者から厳密でかつ真摯なコメントをいただいたし、聴衆からどんな質問が飛んでくるか、70パーセントは想像できるようになった。
いま自分は、研究を次のステップへ進めたいと痛切に感じている。
僕は博士号取得を目指しているから、まだ4年間は研究テーマを成長させるべきなのだ。
その礎として、この4月から共同研究先のWhitehead Institute for Biomedical Researchを数ヶ月間訪れる(留学する)ことになった。
研究内容はまだ具体的に確定していないが、自分が先の論文で提唱した方法を、共同研究先のテーマとうまく噛み合わせたいと考えている。
施設名に"Biomedical"とある通り、共同研究先はBio系の研究室なのだ。
なぜそこにChemistryを専攻する僕が滞在するかと問われれば、理由はいくつかある。
一つ、共同研究先が遂行している研究を自分の所属研究室で開発された手法と組み合わせれば、実験効率が飛躍的に向上する可能性がある。
二つ、僕はBioの研究や技術を自分で取り扱ってみたい。そして、Bioの視点から面白い研究対象は何か、価値のある問いが何かを理解できるようになりたい。
自分の扱えるChemistryの技術をBioの研究と組み合わせたとして、そこに新しいサイエンスが生まれうるのか?
BioとChemistryの融合により実験効率を向上させるだけでは、ただ既存の手法を組み合わせただけ、オリジナリティがないと評価されてしまう可能性がある。
4年以内にやってくるであろうD論審査に耐えるため、自分の存在がなくては実現できなかったであろう分野をブッたてるだとか、研究に何か強みをもたせたい。
三つ、ご縁があった。僕は共同研究先とB4の頃からメールベースでやり取りを交わしていた。サンプルをくださいだとか、こんな進捗がありましただとか、論文の進捗状況だとか、直接会った訳ではないけども、少なからず交流があったぶん僕は彼らに親近感を感じている。
Principal Investigatorの助教授は留学を歓迎してくれているし、これまでの協力に感謝し、今後も関係を深めていく意味を込めて、今度は同じ場で言葉を交わしながら研究をしてみたいと考えた。
研究室の教授からは「別に君に義務を課しているわけじゃない、何でもいいから留学先のものを吸収してきなさい」と後押しいただいた。
あと2週間でボストンでの暮らしが始まるが、それまでに英語でのコミュニケーションになるべく備えておこうと思う。
2018年4月1日日曜日
2018年2月18日日曜日
はじめての論文アクセプト
このところ目まぐるしく忙しかった。ただ、「何かすることがある」という状態は、おそらく幸せなことである。退屈な生活を送っていると、時間のありがたみがわからない。何かを勉強しなくてはいけないと頭ではわかっていても、「ああ、どうせ後でできるから」「わざわざいまやらなくてもいいよ」と言い訳を作ってしまい、結局時間を無為に過ごしてしまう。もちろん怠惰の誘惑に負けることなく、時間を一瞬たりとも無駄にしまいと何かに打ち込める猛者を、僕は何人か知っている。ただ、僕はそんな真似をできなかったというだけだ。
僕は大学時代に比較的暇な生活を送っていたが、そのころに比べると、休日の貴重さが身にしみてわかるようになった。研究室で過ごすようになると、平日は、実験をしたり、プレゼンを作ったり、論文を読んだりで、あっという間に時間が溶けてしまう。夜遅く下宿に帰ってきても、埃まみれの床や、書類が無造作に積まれたテーブルを整理する気にはならない。休日があるおかげで、僕の部屋は秩序だった状態を再び取り戻す。提出しなくてはいけない書類を、ほんの少し片付けることができる。昔よりは時間の使い方がうまくなったと感じている。(平日しなくてはいけないことを休日まで先延ばしにしているだけ、ともいえる)
さて、最近、僕がはじめて書いた論文がアクセプトされた。内容は、僕が卒論提出後から行った実験に基づいている。
"Crystalline Sponge-based Structural Analysis of Crude Natural Product" (Angew. Chem. Int. Ed. 10.1002/anie.201713219)
僕は、筆頭著者として論文を書かせていただいた。まだひよっ子である修士学生にこの機会を与えてくださった研究室の教授には、感謝してもしきれない。論文を書き、実験を遂行し、両輪をうまく回しながら論文の中身を充足させていく過程は、とてもスリリングで、知的好奇心を満たしてくれるものだった。僕はたたき台となる原稿を執筆し、研究室の教授、共同研究先の准教授、アメリカ人ポスドクらがそれをよりサイエンティフィックに面白く、厳密で、英文として適切なものに訂正してくださった。そのおかげもあり、論文は約一ヶ月の査読期間ののち、ほぼすんなりとアクセプトされた。
論文の要旨は誰でも読むことができるうえ、ここで内容について深く記すと著作権の侵害に触れるかもしれないので、中身をここで説明するつもりはない。が、とりあえず、これまで僕の進めてきた研究が一定の成果を生み出したことに安堵している。研究室外の方々に自分の研究内容を発表する機会は4年生の頃からあったが、この頃「面白い研究だ」と評価をいただけることが増えてきた。昔は議論が科学的な妥当性に関するもので留まりがちだっただけに、これは素直に喜ばしい。きっと自分の研究内容が、掲載レベルにまで精製されたことの証なのだろう。この論文をベースにして、来年の修士論文はうまく仕上げてみたいと思う。
僕の所属専攻は、博士論文の審査を開始する条件として、査読付き論文を3報以上執筆していることを掲げているらしい。つまり、僕は、あと3年半以内に、まだ2報は論文を出さなくてはいけない。幸い、最近博士課程で挑戦したいことがおぼろげながら見えてきたので、これを何とか現実のものにしようと思う。近いうちに学振DC1の申請書を書かなくてはいけないが、これはいい機会だ。研究計画のビジョンを、この辺りでしっかり明文化しておく必要がある。
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