2016年5月1日日曜日

モノクロレーザープリンター

僕は三年前の春に大学進学のため上京した。
引っ越しが済んでから三日ほど経ったある日、僕は同郷の友人を誘い、新宿西口のヨドバシカメラを訪れた。
目当てのものはモノクロレーザープリンターだった。

実家ではインクジェット複合機が使われていたが、僕は常々その使い心地が気に入らなかったのだ。
インクジェット機はウォームアップに時間がかかるし、長い間使っていないとインクの出が悪くなる。
純正の替えインクはべらぼうに高いのに、すぐ使い切ってしまう。
紙面に汗が垂れたり、湿った手が印刷面に触れると、像が滲んで見栄えが悪くなる。
これでは蛍光ペンも満足に引けない。
「一人暮らしをするようになったら、下宿に置くプリンタはモノクロレーザープリンタにする」というのは、高校の頃に僕がずっと考えていたことだったのだ。
むろんお金があればカラーレーザープリンタにしたかったが、大学の講義資料やレポートを印刷するためにしかプリンタを使わなさそうだったから、僕は安価で手入れが簡単なモノクロレーザープリンタを買うことにしたのだ。
僕はデジタル写真のプリントはカメラ屋に任せているので、必ずしもカラー印刷できる必要はなかった。
1枚20円で数十年の耐久性がある高品質プリントが得られるなら、わざわざインク/トナー代が高い家庭用プリンタですぐ劣化する写真を印刷する意味は小さいだろう。

さて、ヨドバシカメラのプリンタコーナーに足を運んだが、僕の目的にちょうど良さそうなモノクロレーザープリンタはすぐ見つかった。
キヤノンのLBP 3100だ。起動後10秒も経たないうちに印刷を開始し、1分間に16枚のプリントを吐き出してくれるという。
値段は1万円もしなかったし、1000円のキャッシュバックまでついてくるという。
僕はその場で購入を決め、汗をびっしょりかきながら世田谷区の自宅までそれを持ち帰った。
僕のプリンタは想像以上に重たかった。軽いインクジェット機を買った同郷の友人は「大変そうだなあ」とにやにやしながら、階段の上から僕を何度も見下ろしていた。

ようやく家に帰ると、僕は梱包をとき、よく陽の当たるテーブルの上にプリンタを置いた。
そうして三年前僕のそばに鎮座することになったプリンタは、それから数百枚のレジュメと、たくさんの紙ごみを印刷してきた。
モノクロプリンタの動作は速いから、僕はその様子が見たくて英検の過去問を意味もなく何年分も印刷したこともあった。中身は全く目を通さずに終わった。当時受けた英検一級は当然ながら落ちた。
デスクトップPCが壊れメインPCをThinkpad X200に変えてからも、キャンパスの移動で世田谷の下宿を引き払い本郷近くのマンションに移ってからも、僕はそのプリンタを愛用している。
床の上に直接置くと埃が詰まるから、去年には近所の道具屋で専用のすのこ台を買ってあげた。
プリンタ
モノクロレーザープリンタ Canon LBP3100
僕の大学生活において八面六臂の活躍をしてくれたモノクロレーザープリンタだが、最近はご無沙汰気味である。
僕は研究室に配属され、いつでもカラーレーザープリンタで資料を印刷できるようになったからだ。
論文はカラーで読めたほうが視覚的に理解しやすい。
そして研究室のプリンタなら自分で表裏を差し替えなくても両面印刷できる。

いまでは下宿でベッドサイドテーブル程度の役割しか果たさなくなったモノクロレーザープリンタだが、三年たっても故障する様子はないし、トナーも一度変えただけだ。
まだまだ活躍する見込みはありそうだが、とりあえずは今日も僕の傍でおとなしくしておいてもらおう。

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