2016年4月3日日曜日

東大院試のためのTOEFL受験記

 去る3月19日にTOEFL ibtを初めて受験した。ちょうど10日後の3月29日に結果が返ってきたので、今日はその結果と併せてTOEFL ibtを振り返る。

  • TOEFL ibtを受験した目的
 東京大学大学院工学系研究科を受験するため。東京大学工学系の院試は例年8月下旬から9月上旬にかけて行われ、多くの学科で英語試験(TOEFL ITP)・専門科目試験・面接が課される。自分の志望する学科ではTOEFL ibtのスコアを提出し英語試験に代えることを例年認めている。すなわち、前もってTOEFL ibtを受験すれば院試直前期の勉強時間を専門科目のために充てられるのである。

 TOEFL ibtではリーディング・リスニング・スピーキング・ライティングの4分野が出題される一方、TOEFL ITPではリーディング・リスニングの2分野のみ問われる。一見するとTOEFL ITPの受験が有利に思われる。しかしTOEFL ITPは院試本番の1回しか受験できないのに対し、TOEFL ibtは出願締め切りまでなら何度でも受験できる。その中で最も高いスコアを大学院に提出すればよい。また、前述したように院試直前期に英語の勉強をする必要がなくなる。TOEFL ibtもTOEFL ITPもアカデミックな場面での英語運用力を試す試験だから、出題される語彙やテーマがよく似ている。それゆえTOEFL ibtのための勉強はTOEFL ITP対策に通じている。たとえ今回TOEFL ibtで満足できるスコアを獲得できなくても、出願締め切りまでTOEFL ibtを受け続けるか、院試でTOEFL ITPを受験すればよい。

 そうは言ってもTOEFL ibt受験料は高額だ。日本で受験すると230米ドル、3万円弱かかる(台湾なら170米ドル、韓国なら185米ドルで受験できる。日本での受験料は特に高いが、オーストラリアの300米ドルと比べればまだ安い)。何度も受けていたら家計が破産してしまう。僕はとりあえず1度だけ受験することにした。

  • 現状分析と目標設定
 まず目標点を設定する必要がある。僕は大学1年と2年のとき、IELTSを受験し、2回ともOverall 6.5をマークした。ここからTOEFL ibtのスコアを予想してみよう。

 TOEFLとIELTSの様々な換算法のなかで最も信頼できるのは、TOEFLが公式にIELTSとのスコア相関を調べたもの(外部リンクpdf)だろう。TOEFLとIELTSはどちらもアカデミックな領域を狙う受験者をターゲットとした試験である。目的と形式が似ている試験のスコアの相関関係を分析したこのレポートは信頼性が高く、参考になると考えられる。

 さて、僕が最後に受験したIELTSのスコア(2014年9月受験時)は次のようであった。
 Reading 7.5 / Listening 5.5 / Speaking 6.0 / Writing 6.5 / Overall 6.5
これをもとに、先ほどの論文を参照しながらTOEFL ibtのスコアを予想すると次のようになる。
 Reading 27-28 / Listening 7-11 / Speaking 18-19 / Writing 21-23 / Total 73-81
実はIELTSを2013年に受験したときListeningスコアは6.5だったが、それ以降真面目に英語の勉強をしなかったためリスニング力が落ちたようだ。もしそのときのListeningスコアならTOEFL Listeningで20-23に相当し、Totalの予想スコアは86-93にまで上昇する。

 もし大学1~2年の頃のIELTSベストスコアを採用するなら、僕はTOEFLで最高93点獲得できることになる。ただ最後にIELTSを受験してから1年以上英語を勉強しない環境で過ごしたので、英語力は落ちただろう。まずは大学入学時点の英語力を回復する必要がある。そこで今回は目標点を90点と設定した。

  • 勉強法
TOEFL ibt対策のため、単語帳としてCD-ROM・DL付 完全攻略! TOEFL(R)テスト英単語4000を、問題形式把握と演習用の問題集としてBARRON'S TOEFL iBTを使用した。勉強期間は2か月と短かったため、単語帳は2周、問題集は1周にとどまった。TOEFL ibtはListeningの配点が全体の1/4となっているが、SpeakingとWritingには英語の講義を聞いて問いに答える問題が存在する。実質ListeningがTOEFL ibtに占める割合は1/2といってよい。ご覧のとおり僕のListening能力は貧弱だから、これを重点的に特訓した。具体的には問題集を解くほか、BBC Radioの生放送ニュースを毎晩聴いたり、なるべく字幕を見ずに洋画を鑑賞したりするなどの対策を行った。

 最後にIELTSを受験したとき「英単語が耳に入るが、意味を持つ文として理解できない」現象が起こっていた。これを防ぐため、予想問題を解く際は一つ一つの単語の聞き取りに注力するのでなく、センテンス全体を聞き取るように心掛けた。放送文の理解が妨げられるようなら敢えてメモを取らないこともあった。Listening予想スコアははじめ13点だったが、何度か問題を解くと聞き取り能力が身についたのか、20点前半を獲得できるようになっていた。

 正確な勉強時間は把握していないが、平均して毎日2~3時間は英語に充てるようにしていた。Barron'sの問題集は8週間計80時間で1周できるように作成されているが、復習の時間を考えるとプラス10時間はかかるだろう。英単語の勉強時間や前述のListening対策を含めれば計100時間以上費やした。

 公式問題集では1冊に3回分の予想問題しか入っていない一方、Barron'sの問題集には8回分収録されている。数をこなしてTOEFLの問題形式に慣れる意味ではBarron'sの問題集が良い選択肢だったと思う。非公式の問題集だったが、本物の試験と比べ質的・量的に大きな差異があったとは思わない。Barron'sのTOEFL問題集にはいくつか種類がある。僕が購入したのは冊子+2CD+1CD-ROMバージョンで、CD-ROMに入ったソフトからTOEFL ibt本番形式の予想問題を8回分解くことができる。ReadingとListeningで自動採点機能が働くのは重宝した。質の良いメモをとるための指南が書かれている点もおすすめだ。SpeakingとWritingではメモ取りスキルが必須である。ReadingやListeningではメモを取らない人もいる。僕はReadingでメモを取らない派だが、Listeningでは細かい情報に限ってメモを取っている。全ての考えについてメモを取っていると、いくら時間があっても書ききれない。問題文をmp3プレイヤー等で聞きたい場合、放送文の音声ファイルはWindowsであればソフトをインストールしたPCの「C:\ > Program Files (x86) > TOEFL > audio」にすべて揃っている。

 対策期間が短かったので、問題集の活用は、練習問題と予想問題を解きながら、初見の単語を整理し、Speakingのシャドーイングを行う程度にとどまった。より万全に対策するなら、本教材のSpeakingやWritingの添削をオンラインで依頼したり、問題の全文章について音読・シャドーイングを行うべきだったと思っている。

  • 試験当日
 以前TOEFL ibtを受験した友人は「TOEFLは受付が終わった人から試験を始めるから、試験時間は人によってバラバラ。早めに入室すると自分がリスニングしているときに他の人がスピーキングの試験をしていないから、気が散りにくいよ」と言っていた。このアドバイスにしたがい、当日は集合時間より15分早く試験会場に到着した。早く受付を終えた場合、自分のReading試験中に他の試験者が続々と入ってくる。人によっては気が散るかもしれない。

 ダミー問題(TOEFLが研究・調査のため余分に出題する問題で、スコアにはカウントされない)はReadingに現れた。前半2問はスムーズに解けたが、後半2問は読解力不足のため焦りながら解いた。後半2問はあまり正確に解答できなかったと思う。1問あたり20分のペースを維持し、ダミー問題も含めすべて回答した。開示されたスコアでは予想よりReadingの得点が低くなかったので、後半2問のうちの1問がダミー問題だったのだろう。Listeningは予想問題通りの感触だった。おそらく20点代前半だ。

 Reading・Listening後の10分休憩ではトイレに行き、バナナを食べながら水を飲んだ。そのおかげか後半の試験では集中力を維持することができた。バナナは素早く食べられるし、脳に必要な糖分が豊富だ。

 僕は英語を喋るのが遅いのでSpeakingで時間が余ることはなかった。反面、あまり内容が盛り込めなかったように思う。WritingではIntegrated Essay・Independent Essayともに最低文字数はクリアしている。難しい単語は少ししか使用していないし、TOEFLで求められるような論理的な展開は書けなかったので点数は期待できないかもしれない。また、入力端末に日本語キーボードが使用されている一方入力は英式だったから、アポストロフィ(')が入力できずに焦っていた。結局所有格のofを乱用した。あとで調べてみたが、shiftキー+7でアポストロフィが入力できない場合、Lから右に二つ隣にある「け」のキーを押せばよかったようだ。

 9時30分から始めた試験は4時間後の13時30分に終了した。

  • 結果
 Reading 27 / Listening 22 / Speaking 18 / Writing 21 / Total 88 となった。目標点に届かなかったのが悔やまれる。普段の調子ならばReadingであと2点得点することは可能だっただろう。Listeningは昔の調子が戻ったようだ。大学1年生のときに獲得したIELTS6.5相当だ。Speakingは思ったより得点できていない。自分の意見を述べるパートの評価が低かった。Writingは表現の乏しさと論理展開の甘さが減点につながったのだと思われる。

 結局過去のIELTS得点から予想したスコア範囲内にすべてのスコアが収まっている。思ったよりも低くなくて安心した気持ち反面、大学に入ってからあまり自分の英語力が上がっていないことをまざまざと見せつけられたようだ。ともあれ、付け焼刃な2か月のListening対策はある程度功を奏したと言える。

 TOEFL ibt 88はTOEFL ITP 570に相当するようだ。今後正式に工学系研究科から今年の募集要項が出れば、このスコアを提出するか、あるいは院試でTOEFL ITPを受験するか、方針を決定したい。

  • 結論
 2カ月間でも適切な参考書を使えば自学自習でTOEFL ibtにある程度太刀打ちできる。特にIELTS受験者ならば手持ちのスコアから目標点を立てやすいだろう。東大教養学部では3年前から希望者にIELTS無料受験を実施しているので、内部受験生にはIELTS経験者が少なからずいるはずだ。

 TOEFL ibtを人気会場(たとえば東京都内)で受験したい場合、受験日の2か月前までには申し込みを済ませるべきである。都内で受験したい場合、1か月前ではもう会場に空きがないだろう。

 問題集の選択は自分の好みで選んでよいと思われるが、別にTOEFL用の単語帳を用意して学習を進めるべきである。大学入試に出題される英単語と比べればTOEFLの英文に使用される語彙はハイレベルだ。しかしその出題語彙範囲は限られているから、十分に語彙対策を行えば「ほとんどの単語を見たことがある/知っている」状態でTOEFLに望むことは可能だ。

 「工学系研究科の院試で英語をアドバンテージにするならTOEFLで何点以上獲得すればよいのか」という問いには、残念ながら確証をもって答えることができない。TOEFLスコアをどのような方式で英語の点数に反映させているか、東大が公式に発表していないからだ。合格者平均点等の情報も開示されていない。

 昨年工学系研究科の院試を終えた某氏(TOEFL ibtスコアは100)によると「TOEFL ibt 80以上なら東大内部受験者平均より英語はできるほうだと思うよ」とのことだったので、目安としてはTOEFL ibt 80 / ITP 550以上を狙っていけば良いのかもしれない。

 東京工業大学大学院の昨年度の募集要項(外部リンクpdf)を引用すると、例えば数理・計算科学専攻で英語スコアの取り扱いは次のようになっている。
下記の英語外部テストのスコアシートを提出したものについては英語試験を免除し英語試験を満点として取扱います。  
TOEFL-iBT  80 点以上 
TOEFL-PBT 550 点以上 
TOEIC   730 点以上
同様の尺度が工学系研究科でも採用されているかは不明だが、国内の理系大学院でTOEFLがこのように取り扱われていることはスコア目標を立てる際に参考になるだろう。それにしても、TOEIC過大評価され過ぎでは.


 僕のTOEFL ibt初受験記は以上である。これから学会発表等で英語を使う機会は増えるだろうし、今回の結果に甘んじず英語を勉強しつづける必要があるだろう。ふたたびTOEFL ibtを受験するときまでには、SpeakingとWritingの能力を底上げしておきたい。


<10月3日 追記>
工学系院試の英語試験にこのTOEFL iBTスコアを提出したが、点数開示をしてみると英語の得点は6割ほど(114/200)だった。お世辞にも高い点とは言えないし、正直TOEFL ITPスコアより過小評価されているようにすら感じられる。それゆえ、きわめて高いTOEFL iBTスコアを持っているか、院試直前期に英語をなるべく勉強したくない場合を除いては、院試英語にはTOEFL ITPを選択したほうが良いだろう。

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