「君は日本人にしては英語を話す、どこで勉強したんだ?」
「さあ……ずっと日本に暮らしているし、英語は学校でしか学んでいませんよ。強いて言うなら僕は言語が好きです。それにもともとお喋りなもので」
「俺も言語は好きだ。実は日本で暮らし始めてから日本語を勉強し始めた」
「ああ、それでよく日本語を喋るんですね。どうやって勉強したんです」
「日本語講座に通っている。ここにいる日本人の連中に教えてもらうのも手だったけど、俺は独立心が強いから頼りたくなかった。同僚に『○○くん、教えてください~』と頼むの、ダサいだろ。講座にはもう二年ほど通っているが、最近2級をとったのがちょっとした自慢だ」
「すごい……僕はそこまで言語をやりこめる気はしません。でもイタリア語、あれは好きです。響きが陽気だし、イタリア人も陽気。イタリア語は挨拶を覚えているだけでも面白い。去年イタリアに行ったときそれを感じました」
「そうだな。イタリア人は面白いやつらだ。どこに何日行ったんだ?」
「ローマに一日だけ。フュミチーノ空港で乗り継ぎをしたとき、ついでにローマを見てきました。食べ物は安くて美味しかったし、建築物は美しかった。また行きたいですね。貴方は行ったことありますか」
「ヴェネツィアに二日だけだな」
「じゃあ僕と似たような感じですね」
「同じく乗り継ぎだよ。乗り継ぎで街を訪れるのは金がかからなくて賢明な旅行プランだと思うね」
「たしかに。でもローマではスマホを掏られたので結構高くつきましたね」
「お気の毒に。君はイタリアに行けばどう見ても『外国人』だからな。スリの標的になりやすいんだ。それに海外の都市は日本ほど安全じゃない。いや、日本が安全すぎるんだ」
「同感です。もうちょっと注意すべきでした。それにしてもローマは危ない街でした。盗難証明書をもらうために警察署に行ったけど、盗難にあった人でいっぱいでしたよ。警官も人の名前が覚えるのが面倒みたいで、僕たちを『ジャポネーゼ!』『フランチェーゼ!』だとか、国籍で呼ぶんです。さすがに苦笑いしましたよ。ところで貴方は昔ベルリンにいたんでしたね。ちょっとだけ旅行したんだけど、安全で清潔で、いい街でした」
「そうだろう。ベルリンはいいところだった、とても」
「ところで……貴方はなぜ研究者になろうと思ったんですか」
「好奇心が強いからだ。なぜ空は青いんだ?宇宙は真っ暗なのに、空は青く見える。よく考えたら不思議じゃないか。自然にはそれ以外にも不思議なことがあふれている。でも多くの人はその理由を知らずに過ごしている」
「なるほど。物理や化学をやった人間ならそれはわかるだろうけど、みんながそういった分野を知っているわけではないですね」
「この机に使われている木とプラスチックだってそうさ。どれだけ多くの人がこの二つの違いを知っている?多くの人間はそれを知らずに過ごせるだろう。でも俺はさっき言ったように好奇心が強いから、それだと我慢できないんだよ」
「その気持ちはわかります」
「今まで誰も知らなかったことを知りたい。自分でそれを解明したい。そう思ったから研究者になったんだ」
「とても面白い話ですね。誰も知らないことを自分で見つける、というのは僕も何となく持っている願望です」
「博士課程に興味はないのかい」
「さあ……わかりません。研究活動が好きになるかわからないし、お金の問題もある。可能性は排除しないですが」
「いや、別に強制しているわけじゃないよ、君の人生だ、君が自由に選んでいい。それに修士卒で企業に行ったって面白い研究はできる。ただ、研究が好きなら行って損はしないだろうさ。」
「どうでしょう……僕は研究を始めたばかりだし、まだわからないことだらけです。あと二、三年以内にはしなくちゃいけない選択ですけど、今はなんとも言えないですね」
「なるほど。じっくり考えなさい。じゃ、俺は解析があるので失礼するよ。また後で」
「お疲れ様です。面白い話ありがとうございました」
2016年4月24日日曜日
2016年4月17日日曜日
地理部の宣伝
いままで二年間世話になっていることだし、今年は自分の所属するサークルの宣伝をさせてもらおうと思う。
新年度が始まり二週間が経った。僕の過ごす本郷キャンパスは基本的に大学三年生以上の通う場所であり、新入生の姿を見かけることはまずない。反面、新入生に溢れた駒場キャンパスではきっと今年も様々な団体が新入生勧誘にいそしんでいるのだろう。僕のサークルでは新歓活動は基本的に大学二年生のお仕事だから、四月だけれど僕はサークルから縁遠い生活を送っている。
僕も最近は研究室が忙しく時間が取れなくなっているのでありがたい限りだ。
大学一年生のなかにはサークルや部活の新歓イベントに毎日顔を出している人もいるだろう。高校までの学校と異なり、大学にはクラスごとの教室がない。毎日大学で講義を受けているだけではなかなか友人はできない。もちろん大学に友人関係を求めない人もいるだろうが、これからの最短四年間を友人なしで過ごせる勇気のある人は多くないだろう。サークルや部活に入ることは「せっかく大学生になったのだし、これからは人間関係を広めたい…」と思っている新入生に良い選択肢だ。大学生は今までより自由な時間の使い方ができるぶん、社交の選択肢は充実する。
誰かの家で夜遅くまで語り合ったり、同年代の友人と泊りがけで旅行に出かけたり、高校生/浪人生だった今までより自由な交友ができる。そのうち同期達とお酒が飲めるようになれば、普段言えないような悩み、秘密を友人たちに打ち明けたり、打ち明けられたり、質・量ともに充実した人間関係が構築できる(といってもこれはお酒を飲めなくい人でもできることだ、体質的に飲めなくても安心してほしい)。
さて、「どこのサークルに入ればいいのか」という問題だが、ここで東京大学地文研究会地理部(略して地理部)を宣伝させてもらおうと思う。おすすめする理由はいくつかある。
新年度が始まり二週間が経った。僕の過ごす本郷キャンパスは基本的に大学三年生以上の通う場所であり、新入生の姿を見かけることはまずない。反面、新入生に溢れた駒場キャンパスではきっと今年も様々な団体が新入生勧誘にいそしんでいるのだろう。僕のサークルでは新歓活動は基本的に大学二年生のお仕事だから、四月だけれど僕はサークルから縁遠い生活を送っている。
僕も最近は研究室が忙しく時間が取れなくなっているのでありがたい限りだ。
大学一年生のなかにはサークルや部活の新歓イベントに毎日顔を出している人もいるだろう。高校までの学校と異なり、大学にはクラスごとの教室がない。毎日大学で講義を受けているだけではなかなか友人はできない。もちろん大学に友人関係を求めない人もいるだろうが、これからの最短四年間を友人なしで過ごせる勇気のある人は多くないだろう。サークルや部活に入ることは「せっかく大学生になったのだし、これからは人間関係を広めたい…」と思っている新入生に良い選択肢だ。大学生は今までより自由な時間の使い方ができるぶん、社交の選択肢は充実する。
誰かの家で夜遅くまで語り合ったり、同年代の友人と泊りがけで旅行に出かけたり、高校生/浪人生だった今までより自由な交友ができる。そのうち同期達とお酒が飲めるようになれば、普段言えないような悩み、秘密を友人たちに打ち明けたり、打ち明けられたり、質・量ともに充実した人間関係が構築できる(といってもこれはお酒を飲めなくい人でもできることだ、体質的に飲めなくても安心してほしい)。
さて、「どこのサークルに入ればいいのか」という問題だが、ここで東京大学地文研究会地理部(略して地理部)を宣伝させてもらおうと思う。おすすめする理由はいくつかある。
- 入部条件(大学名,年齢,参加費, etc.)がない完全なインカレサークルである
ご存知のように東大には多くのサークルがあるが、入部条件がある場合も少なくない。東大女子不可、未経験者不可、一発芸が面白くないと入部拒否など、いくつかのところは新入生が気軽に入りづらい条件を課している。本当にそのスポーツ/文化活動に情熱を持っている人間をセレクション(選抜)することは団体にとって重要だが、ただ何となく友人を探している新入生には敷居が高く感じられるだろう。地理部は入部にあたって特に条件を課していない。東京近辺の大学に通っている学生ならだれでも入部できる。自分の大学がどこであれ気に病む必要はない。実際地理部には「自分の大学外のサークルにいたんだけど、なんとなく煙たがられて…」という他大学の学生がやって来て、積極的に参加している。年齢制限もないから、大学二年生以上でも気軽に参加することができる。現に僕が大学二年で地理部に入ったのだが、「彼は大学で同じ学年だけど、サークルに入ったのは自分が後だから先輩と呼ぶ」ということはない。同じ学年なら、入った時期に関係なくフランクに付き合っている。上下関係は特に厳しくないので、先輩・後輩とも気軽に接している。参加費は全くいらない。必要なのは交通費・食費・宿泊費くらいである。
- 散歩・旅行ができる
- 参加義務がない
すべての巡検・合宿・イベントは自由参加だ。勉強が忙しいときは巡検を休んでもいいし、お金に余裕が無さそうならコンパに出なくてもいい。僕はこれをいいことに実験レポートで多忙だった大学三年生の一年間はほとんど巡検に行かなかった(ごめんなさい)が、特に実害は生じていない。長期休みの合宿だけ行く人、コンパにだけ来る人、巡検なら可能な限りすべて行く人、いろいろなタイプの部員がいる。全く地理部と関係ないところで出会った人に挨拶すると、「実は俺も地理部員なんだ…幽霊部員だけど」と言われたこともある。入部により義務が生じるわけではないのでこのようなことも生じるが、もともと入部人数が多いので今のところ部員不足は問題となっていない。もちろんある程度活動にコミットすれば、多くの友人が見つかるだろう。現に僕が大学で作った友人の多くは地理部に由来する。
この記事を見て「なんとなく面白そうだなぁ…」と思ったら、新歓巡検に参加してみるのが良いだろう。今年の巡検予定は公式ウェブサイトで閲覧できる。事前連絡は特に不要だ。特に4月28日から29日にかけて行われる「山手線一周巡検」はおすすめだ。午後七時頃に駒場キャンパスから出発し、渋谷を起点として山手線を外回りで十二時間以上かけて一周する。夜の東京を安全に味わえる面白い企画で、地理部の伝統行事となっている。40km以上を歩く気力がなければ終電帰宅・始発合流も可能だから、気軽に参加できるだろう。今年も僕はこれに参加するつもりだ。
2016年4月10日日曜日
Meaningless Prologue for a Bachelor Thesis
「『天職』っていう言葉があるけど、英語でなんて言うかわかる?」
「 Vocation ですか」
「それも確かにあるけど、ここでは Calling としよう」
「ああ、なるほど」
「俺は学部4年で研究室に配属されてずっと研究をやってきたけど、修士2年のときにまだ研究を続けたいと思ったんだよ。まだここで終わりたくない、何かが自分を呼んでいる、って感じかな。天職、 Calling を感じた。それでドクターに進んで、何とか今までやってこれた。競争の激しい世界だし、自分の領域を確立しないと残れないのがこの世界の掟だ。一寸先は闇だよ。俺たち研究者は自分の身を賭けて研究をやっている。師匠と同じことをしていてはオリジナリティがないからね」
「まだ研究室に入って間もない僕には想像のつかない世界ですね。これから一年間は教授に与えられたテーマを進めていくことになるのですが、いったいどういうスタンスでやっていけばいいのでしょう」
「まずは与えられたテーマに満額回答、いや120パーセントの答えを出してみるといい。オリジナリティを追及するのはそれからだよ。俺は研究を進めていくうちに二種類の人間が出てくることを経験している。自分のテーマに愛しさを感じるようになる奴と、そうでない奴」
「毎日それについて考えていれば親近感を覚えるようになると思います。きっと前者が研究者向きなのですね」
「そうとも限らない。それが自分のストーリーではなく、教授のものに見える瞬間が訪れるんだよ」
「ああ。確かに教授が問題を提示して、学生はそこから出発しますね。答えまでたどり着くのは自分の力に大きく依存するかもしれませんが」
「研究室、という環境も大きいよ。君たちは結構恵まれた環境にいる。高額な測定装置がいくつもあるし、器具だって贅沢に使える。野球で例えるなら、イチローがいる球団の二軍にいるようなものかな。君を指導する教授は立派な成果がいくつもあるから、お金をたくさん持っている。別の所に行ってみると、自分のいたところが恵まれていたと気付くんじゃないかな。大事なものは失ってから気付くとでもいうのか」
「似たような経験をしたことがあります。僕はむかし学校の写真部にいて、放課後は毎日暗室作業をしていました。モノクロフィルムを現像し、紙に焼き付けるんです。あるとき顧問とどうしても意見が一致しなくて、抗議の意を込めて写真部をやめました。別に写真部じゃなくても写真は続けられる、そう思っていたんです」
「なるほど」
「じゃあ実際にまたモノクロ写真を続けようとするとどうすればいいのか。僕は市の美術館が持っている暗室を使うことにしました。お金のない高校生には無料というだけでありがたかった。でも実際写真部にいたころと同じクオリティーを無料暗室で再現しようと思っても、なにもわからなかった。いったい現像用品はどこで買えばいいのか、印画紙は何がいいのか。結局通信販売で揃えられましたけど、おこづかいも多くないし、写真部にいたころのような贅沢なプリントは再現できなかった。備え付けの機材一つとっても、うちの写真部にあったものとは格段に劣るものでした。全国大会で優勝した経験があるような部だったから、機材に充てる予算をたくさん持っていたんですね」
「いい経験をしたね。俺だってもし今のラボを追い出されたら、薬品の買い方だって怪しい。とにかく、君は実験するには恵まれた環境に置かれたんだ。イチローの下で野球を学べるようなものだよ。それを十分に生かしてほしいね。ああ、そういえばさっきの話に戻ると」
「オリジナリティの話ですか」
「うん、そう。自分が与えられた研究テーマは本当に自分でなければだめだったのか、と思うようになる。隣の研究室にいる○○君がもし自分のテーマを進めていたら、やはり同じ結果を出したんじゃないかってね」
「学生実験みたいですね。学ぶべきことはすでに決まっていて、手順は本に書かれている。レポートには期待された答えを書けばいい。自分たちは実験を通して試行錯誤しながら新しいことを学んでいるようだけど、それって実は教授達の決めた通りに動いているだけなんじゃないかって」
「学生実験と比べるのは極端だけど、そんな感じかな。自分がいなければこの研究は、この領域は決して成立することはなかった、そう思えるようになるのが夢だ。俺が研究に命を賭けようと思えるのは、その夢があるからだ。俺もまだ若いから確かなことは言えないけどね、教授はいつか弟子に自分と同じ段階で悩んでもらいたいんだよ」
「それってどういうことです」
「学生の君は若いから、まだ初歩的なことで躓くだろう。そういうとき遠慮なく周りに質問していけば、自分の独力で頑張るより早く上達する。だから恥じずに質問することだね。ところで教授はプロだから、他の人には想像がつかないようなレベルの高いところで悩む。君が仮に悩んでいたとして、教授はむかし同じことを悩んで乗り越えただろう、あまり大きな問題ではない。でも教授は長い目で計画を立てている。必然的にその悩みは深遠、難解だ。もし君が同じ悩みを持つようになったら、君は教授と同じレベルに立ったということだ。もう弟子扱いしていられないし、君の意見と本気で取り組むようになるだろう」
「そこまで何年かかるでしょうね」
「俺だってまだその域には達したとは言えないだろう。若手だからね。今日はB4の君にはまだ早い話が多かったけど、とりあえず教授の出したテーマに完璧を目指して取り組んでみることだ」
「ええ、なんとかやってみます。ありがとうございました」
「 Vocation ですか」
「それも確かにあるけど、ここでは Calling としよう」
「ああ、なるほど」
「俺は学部4年で研究室に配属されてずっと研究をやってきたけど、修士2年のときにまだ研究を続けたいと思ったんだよ。まだここで終わりたくない、何かが自分を呼んでいる、って感じかな。天職、 Calling を感じた。それでドクターに進んで、何とか今までやってこれた。競争の激しい世界だし、自分の領域を確立しないと残れないのがこの世界の掟だ。一寸先は闇だよ。俺たち研究者は自分の身を賭けて研究をやっている。師匠と同じことをしていてはオリジナリティがないからね」
「まだ研究室に入って間もない僕には想像のつかない世界ですね。これから一年間は教授に与えられたテーマを進めていくことになるのですが、いったいどういうスタンスでやっていけばいいのでしょう」
「まずは与えられたテーマに満額回答、いや120パーセントの答えを出してみるといい。オリジナリティを追及するのはそれからだよ。俺は研究を進めていくうちに二種類の人間が出てくることを経験している。自分のテーマに愛しさを感じるようになる奴と、そうでない奴」
「毎日それについて考えていれば親近感を覚えるようになると思います。きっと前者が研究者向きなのですね」
「そうとも限らない。それが自分のストーリーではなく、教授のものに見える瞬間が訪れるんだよ」
「ああ。確かに教授が問題を提示して、学生はそこから出発しますね。答えまでたどり着くのは自分の力に大きく依存するかもしれませんが」
「研究室、という環境も大きいよ。君たちは結構恵まれた環境にいる。高額な測定装置がいくつもあるし、器具だって贅沢に使える。野球で例えるなら、イチローがいる球団の二軍にいるようなものかな。君を指導する教授は立派な成果がいくつもあるから、お金をたくさん持っている。別の所に行ってみると、自分のいたところが恵まれていたと気付くんじゃないかな。大事なものは失ってから気付くとでもいうのか」
「似たような経験をしたことがあります。僕はむかし学校の写真部にいて、放課後は毎日暗室作業をしていました。モノクロフィルムを現像し、紙に焼き付けるんです。あるとき顧問とどうしても意見が一致しなくて、抗議の意を込めて写真部をやめました。別に写真部じゃなくても写真は続けられる、そう思っていたんです」
「なるほど」
「じゃあ実際にまたモノクロ写真を続けようとするとどうすればいいのか。僕は市の美術館が持っている暗室を使うことにしました。お金のない高校生には無料というだけでありがたかった。でも実際写真部にいたころと同じクオリティーを無料暗室で再現しようと思っても、なにもわからなかった。いったい現像用品はどこで買えばいいのか、印画紙は何がいいのか。結局通信販売で揃えられましたけど、おこづかいも多くないし、写真部にいたころのような贅沢なプリントは再現できなかった。備え付けの機材一つとっても、うちの写真部にあったものとは格段に劣るものでした。全国大会で優勝した経験があるような部だったから、機材に充てる予算をたくさん持っていたんですね」
「いい経験をしたね。俺だってもし今のラボを追い出されたら、薬品の買い方だって怪しい。とにかく、君は実験するには恵まれた環境に置かれたんだ。イチローの下で野球を学べるようなものだよ。それを十分に生かしてほしいね。ああ、そういえばさっきの話に戻ると」
「オリジナリティの話ですか」
「うん、そう。自分が与えられた研究テーマは本当に自分でなければだめだったのか、と思うようになる。隣の研究室にいる○○君がもし自分のテーマを進めていたら、やはり同じ結果を出したんじゃないかってね」
「学生実験みたいですね。学ぶべきことはすでに決まっていて、手順は本に書かれている。レポートには期待された答えを書けばいい。自分たちは実験を通して試行錯誤しながら新しいことを学んでいるようだけど、それって実は教授達の決めた通りに動いているだけなんじゃないかって」
「学生実験と比べるのは極端だけど、そんな感じかな。自分がいなければこの研究は、この領域は決して成立することはなかった、そう思えるようになるのが夢だ。俺が研究に命を賭けようと思えるのは、その夢があるからだ。俺もまだ若いから確かなことは言えないけどね、教授はいつか弟子に自分と同じ段階で悩んでもらいたいんだよ」
「それってどういうことです」
「学生の君は若いから、まだ初歩的なことで躓くだろう。そういうとき遠慮なく周りに質問していけば、自分の独力で頑張るより早く上達する。だから恥じずに質問することだね。ところで教授はプロだから、他の人には想像がつかないようなレベルの高いところで悩む。君が仮に悩んでいたとして、教授はむかし同じことを悩んで乗り越えただろう、あまり大きな問題ではない。でも教授は長い目で計画を立てている。必然的にその悩みは深遠、難解だ。もし君が同じ悩みを持つようになったら、君は教授と同じレベルに立ったということだ。もう弟子扱いしていられないし、君の意見と本気で取り組むようになるだろう」
「そこまで何年かかるでしょうね」
「俺だってまだその域には達したとは言えないだろう。若手だからね。今日はB4の君にはまだ早い話が多かったけど、とりあえず教授の出したテーマに完璧を目指して取り組んでみることだ」
「ええ、なんとかやってみます。ありがとうございました」
2016年4月3日日曜日
東大院試のためのTOEFL受験記
去る3月19日にTOEFL ibtを初めて受験した。ちょうど10日後の3月29日に結果が返ってきたので、今日はその結果と併せてTOEFL ibtを振り返る。
最後にIELTSを受験したとき「英単語が耳に入るが、意味を持つ文として理解できない」現象が起こっていた。これを防ぐため、予想問題を解く際は一つ一つの単語の聞き取りに注力するのでなく、センテンス全体を聞き取るように心掛けた。放送文の理解が妨げられるようなら敢えてメモを取らないこともあった。Listening予想スコアははじめ13点だったが、何度か問題を解くと聞き取り能力が身についたのか、20点前半を獲得できるようになっていた。
正確な勉強時間は把握していないが、平均して毎日2~3時間は英語に充てるようにしていた。Barron'sの問題集は8週間計80時間で1周できるように作成されているが、復習の時間を考えるとプラス10時間はかかるだろう。英単語の勉強時間や前述のListening対策を含めれば計100時間以上費やした。
公式問題集では1冊に3回分の予想問題しか入っていない一方、Barron'sの問題集には8回分収録されている。数をこなしてTOEFLの問題形式に慣れる意味ではBarron'sの問題集が良い選択肢だったと思う。非公式の問題集だったが、本物の試験と比べ質的・量的に大きな差異があったとは思わない。Barron'sのTOEFL問題集にはいくつか種類がある。僕が購入したのは冊子+2CD+1CD-ROMバージョンで、CD-ROMに入ったソフトからTOEFL ibt本番形式の予想問題を8回分解くことができる。ReadingとListeningで自動採点機能が働くのは重宝した。質の良いメモをとるための指南が書かれている点もおすすめだ。SpeakingとWritingではメモ取りスキルが必須である。ReadingやListeningではメモを取らない人もいる。僕はReadingでメモを取らない派だが、Listeningでは細かい情報に限ってメモを取っている。全ての考えについてメモを取っていると、いくら時間があっても書ききれない。問題文をmp3プレイヤー等で聞きたい場合、放送文の音声ファイルはWindowsであればソフトをインストールしたPCの「C:\ > Program Files (x86) > TOEFL > audio」にすべて揃っている。
対策期間が短かったので、問題集の活用は、練習問題と予想問題を解きながら、初見の単語を整理し、Speakingのシャドーイングを行う程度にとどまった。より万全に対策するなら、本教材のSpeakingやWritingの添削をオンラインで依頼したり、問題の全文章について音読・シャドーイングを行うべきだったと思っている。
僕のTOEFL ibt初受験記は以上である。これから学会発表等で英語を使う機会は増えるだろうし、今回の結果に甘んじず英語を勉強しつづける必要があるだろう。ふたたびTOEFL ibtを受験するときまでには、SpeakingとWritingの能力を底上げしておきたい。
<10月3日 追記>
工学系院試の英語試験にこのTOEFL iBTスコアを提出したが、点数開示をしてみると英語の得点は6割ほど(114/200)だった。お世辞にも高い点とは言えないし、正直TOEFL ITPスコアより過小評価されているようにすら感じられる。それゆえ、きわめて高いTOEFL iBTスコアを持っているか、院試直前期に英語をなるべく勉強したくない場合を除いては、院試英語にはTOEFL ITPを選択したほうが良いだろう。
- TOEFL ibtを受験した目的
東京大学大学院工学系研究科を受験するため。東京大学工学系の院試は例年8月下旬から9月上旬にかけて行われ、多くの学科で英語試験(TOEFL ITP)・専門科目試験・面接が課される。自分の志望する学科ではTOEFL ibtのスコアを提出し英語試験に代えることを例年認めている。すなわち、前もってTOEFL ibtを受験すれば院試直前期の勉強時間を専門科目のために充てられるのである。
TOEFL ibtではリーディング・リスニング・スピーキング・ライティングの4分野が出題される一方、TOEFL ITPではリーディング・リスニングの2分野のみ問われる。一見するとTOEFL ITPの受験が有利に思われる。しかしTOEFL ITPは院試本番の1回しか受験できないのに対し、TOEFL ibtは出願締め切りまでなら何度でも受験できる。その中で最も高いスコアを大学院に提出すればよい。また、前述したように院試直前期に英語の勉強をする必要がなくなる。TOEFL ibtもTOEFL ITPもアカデミックな場面での英語運用力を試す試験だから、出題される語彙やテーマがよく似ている。それゆえTOEFL ibtのための勉強はTOEFL ITP対策に通じている。たとえ今回TOEFL ibtで満足できるスコアを獲得できなくても、出願締め切りまでTOEFL ibtを受け続けるか、院試でTOEFL ITPを受験すればよい。
そうは言ってもTOEFL ibt受験料は高額だ。日本で受験すると230米ドル、3万円弱かかる(台湾なら170米ドル、韓国なら185米ドルで受験できる。日本での受験料は特に高いが、オーストラリアの300米ドルと比べればまだ安い)。何度も受けていたら家計が破産してしまう。僕はとりあえず1度だけ受験することにした。
そうは言ってもTOEFL ibt受験料は高額だ。日本で受験すると230米ドル、3万円弱かかる(台湾なら170米ドル、韓国なら185米ドルで受験できる。日本での受験料は特に高いが、オーストラリアの300米ドルと比べればまだ安い)。何度も受けていたら家計が破産してしまう。僕はとりあえず1度だけ受験することにした。
- 現状分析と目標設定
まず目標点を設定する必要がある。僕は大学1年と2年のとき、IELTSを受験し、2回ともOverall 6.5をマークした。ここからTOEFL ibtのスコアを予想してみよう。
TOEFLとIELTSの様々な換算法のなかで最も信頼できるのは、TOEFLが公式にIELTSとのスコア相関を調べたもの(外部リンクpdf)だろう。TOEFLとIELTSはどちらもアカデミックな領域を狙う受験者をターゲットとした試験である。目的と形式が似ている試験のスコアの相関関係を分析したこのレポートは信頼性が高く、参考になると考えられる。
TOEFLとIELTSの様々な換算法のなかで最も信頼できるのは、TOEFLが公式にIELTSとのスコア相関を調べたもの(外部リンクpdf)だろう。TOEFLとIELTSはどちらもアカデミックな領域を狙う受験者をターゲットとした試験である。目的と形式が似ている試験のスコアの相関関係を分析したこのレポートは信頼性が高く、参考になると考えられる。
さて、僕が最後に受験したIELTSのスコア(2014年9月受験時)は次のようであった。
Reading 7.5 / Listening 5.5 / Speaking 6.0 / Writing 6.5 / Overall 6.5
これをもとに、先ほどの論文を参照しながらTOEFL ibtのスコアを予想すると次のようになる。
Reading 27-28 / Listening 7-11 / Speaking 18-19 / Writing 21-23 / Total 73-81
実はIELTSを2013年に受験したときListeningスコアは6.5だったが、それ以降真面目に英語の勉強をしなかったためリスニング力が落ちたようだ。もしそのときのListeningスコアならTOEFL Listeningで20-23に相当し、Totalの予想スコアは86-93にまで上昇する。
もし大学1~2年の頃のIELTSベストスコアを採用するなら、僕はTOEFLで最高93点獲得できることになる。ただ最後にIELTSを受験してから1年以上英語を勉強しない環境で過ごしたので、英語力は落ちただろう。まずは大学入学時点の英語力を回復する必要がある。そこで今回は目標点を90点と設定した。
- 勉強法
最後にIELTSを受験したとき「英単語が耳に入るが、意味を持つ文として理解できない」現象が起こっていた。これを防ぐため、予想問題を解く際は一つ一つの単語の聞き取りに注力するのでなく、センテンス全体を聞き取るように心掛けた。放送文の理解が妨げられるようなら敢えてメモを取らないこともあった。Listening予想スコアははじめ13点だったが、何度か問題を解くと聞き取り能力が身についたのか、20点前半を獲得できるようになっていた。
正確な勉強時間は把握していないが、平均して毎日2~3時間は英語に充てるようにしていた。Barron'sの問題集は8週間計80時間で1周できるように作成されているが、復習の時間を考えるとプラス10時間はかかるだろう。英単語の勉強時間や前述のListening対策を含めれば計100時間以上費やした。
公式問題集では1冊に3回分の予想問題しか入っていない一方、Barron'sの問題集には8回分収録されている。数をこなしてTOEFLの問題形式に慣れる意味ではBarron'sの問題集が良い選択肢だったと思う。非公式の問題集だったが、本物の試験と比べ質的・量的に大きな差異があったとは思わない。Barron'sのTOEFL問題集にはいくつか種類がある。僕が購入したのは冊子+2CD+1CD-ROMバージョンで、CD-ROMに入ったソフトからTOEFL ibt本番形式の予想問題を8回分解くことができる。ReadingとListeningで自動採点機能が働くのは重宝した。質の良いメモをとるための指南が書かれている点もおすすめだ。SpeakingとWritingではメモ取りスキルが必須である。ReadingやListeningではメモを取らない人もいる。僕はReadingでメモを取らない派だが、Listeningでは細かい情報に限ってメモを取っている。全ての考えについてメモを取っていると、いくら時間があっても書ききれない。問題文をmp3プレイヤー等で聞きたい場合、放送文の音声ファイルはWindowsであればソフトをインストールしたPCの「C:\ > Program Files (x86) > TOEFL > audio」にすべて揃っている。
対策期間が短かったので、問題集の活用は、練習問題と予想問題を解きながら、初見の単語を整理し、Speakingのシャドーイングを行う程度にとどまった。より万全に対策するなら、本教材のSpeakingやWritingの添削をオンラインで依頼したり、問題の全文章について音読・シャドーイングを行うべきだったと思っている。
- 試験当日
以前TOEFL ibtを受験した友人は「TOEFLは受付が終わった人から試験を始めるから、試験時間は人によってバラバラ。早めに入室すると自分がリスニングしているときに他の人がスピーキングの試験をしていないから、気が散りにくいよ」と言っていた。このアドバイスにしたがい、当日は集合時間より15分早く試験会場に到着した。早く受付を終えた場合、自分のReading試験中に他の試験者が続々と入ってくる。人によっては気が散るかもしれない。
ダミー問題(TOEFLが研究・調査のため余分に出題する問題で、スコアにはカウントされない)はReadingに現れた。前半2問はスムーズに解けたが、後半2問は読解力不足のため焦りながら解いた。後半2問はあまり正確に解答できなかったと思う。1問あたり20分のペースを維持し、ダミー問題も含めすべて回答した。開示されたスコアでは予想よりReadingの得点が低くなかったので、後半2問のうちの1問がダミー問題だったのだろう。Listeningは予想問題通りの感触だった。おそらく20点代前半だ。
Reading・Listening後の10分休憩ではトイレに行き、バナナを食べながら水を飲んだ。そのおかげか後半の試験では集中力を維持することができた。バナナは素早く食べられるし、脳に必要な糖分が豊富だ。
僕は英語を喋るのが遅いのでSpeakingで時間が余ることはなかった。反面、あまり内容が盛り込めなかったように思う。WritingではIntegrated Essay・Independent Essayともに最低文字数はクリアしている。難しい単語は少ししか使用していないし、TOEFLで求められるような論理的な展開は書けなかったので点数は期待できないかもしれない。また、入力端末に日本語キーボードが使用されている一方入力は英式だったから、アポストロフィ(')が入力できずに焦っていた。結局所有格のofを乱用した。あとで調べてみたが、shiftキー+7でアポストロフィが入力できない場合、Lから右に二つ隣にある「け」のキーを押せばよかったようだ。
9時30分から始めた試験は4時間後の13時30分に終了した。
- 結果
Reading 27 / Listening 22 / Speaking 18 / Writing 21 / Total 88 となった。目標点に届かなかったのが悔やまれる。普段の調子ならばReadingであと2点得点することは可能だっただろう。Listeningは昔の調子が戻ったようだ。大学1年生のときに獲得したIELTS6.5相当だ。Speakingは思ったより得点できていない。自分の意見を述べるパートの評価が低かった。Writingは表現の乏しさと論理展開の甘さが減点につながったのだと思われる。
結局過去のIELTS得点から予想したスコア範囲内にすべてのスコアが収まっている。思ったよりも低くなくて安心した気持ち反面、大学に入ってからあまり自分の英語力が上がっていないことをまざまざと見せつけられたようだ。ともあれ、付け焼刃な2か月のListening対策はある程度功を奏したと言える。
TOEFL ibt 88はTOEFL ITP 570に相当するようだ。今後正式に工学系研究科から今年の募集要項が出れば、このスコアを提出するか、あるいは院試でTOEFL ITPを受験するか、方針を決定したい。
- 結論
2カ月間でも適切な参考書を使えば自学自習でTOEFL ibtにある程度太刀打ちできる。特にIELTS受験者ならば手持ちのスコアから目標点を立てやすいだろう。東大教養学部では3年前から希望者にIELTS無料受験を実施しているので、内部受験生にはIELTS経験者が少なからずいるはずだ。
TOEFL ibtを人気会場(たとえば東京都内)で受験したい場合、受験日の2か月前までには申し込みを済ませるべきである。都内で受験したい場合、1か月前ではもう会場に空きがないだろう。
問題集の選択は自分の好みで選んでよいと思われるが、別にTOEFL用の単語帳を用意して学習を進めるべきである。大学入試に出題される英単語と比べればTOEFLの英文に使用される語彙はハイレベルだ。しかしその出題語彙範囲は限られているから、十分に語彙対策を行えば「ほとんどの単語を見たことがある/知っている」状態でTOEFLに望むことは可能だ。
「工学系研究科の院試で英語をアドバンテージにするならTOEFLで何点以上獲得すればよいのか」という問いには、残念ながら確証をもって答えることができない。TOEFLスコアをどのような方式で英語の点数に反映させているか、東大が公式に発表していないからだ。合格者平均点等の情報も開示されていない。
昨年工学系研究科の院試を終えた某氏(TOEFL ibtスコアは100)によると「TOEFL ibt 80以上なら東大内部受験者平均より英語はできるほうだと思うよ」とのことだったので、目安としてはTOEFL ibt 80 / ITP 550以上を狙っていけば良いのかもしれない。
昨年工学系研究科の院試を終えた某氏(TOEFL ibtスコアは100)によると「TOEFL ibt 80以上なら東大内部受験者平均より英語はできるほうだと思うよ」とのことだったので、目安としてはTOEFL ibt 80 / ITP 550以上を狙っていけば良いのかもしれない。
東京工業大学大学院の昨年度の募集要項(外部リンクpdf)を引用すると、例えば数理・計算科学専攻で英語スコアの取り扱いは次のようになっている。
下記の英語外部テストのスコアシートを提出したものについては英語試験を免除し英語試験を満点として取扱います。
TOEFL-iBT 80 点以上
TOEFL-PBT 550 点以上
TOEIC 730 点以上同様の尺度が工学系研究科でも採用されているかは不明だが、国内の理系大学院でTOEFLがこのように取り扱われていることはスコア目標を立てる際に参考になるだろう。それにしても、TOEIC過大評価され過ぎでは.
僕のTOEFL ibt初受験記は以上である。これから学会発表等で英語を使う機会は増えるだろうし、今回の結果に甘んじず英語を勉強しつづける必要があるだろう。ふたたびTOEFL ibtを受験するときまでには、SpeakingとWritingの能力を底上げしておきたい。
<10月3日 追記>
工学系院試の英語試験にこのTOEFL iBTスコアを提出したが、点数開示をしてみると英語の得点は6割ほど(114/200)だった。お世辞にも高い点とは言えないし、正直TOEFL ITPスコアより過小評価されているようにすら感じられる。それゆえ、きわめて高いTOEFL iBTスコアを持っているか、院試直前期に英語をなるべく勉強したくない場合を除いては、院試英語にはTOEFL ITPを選択したほうが良いだろう。
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