2016年2月7日日曜日

東大合格体験記

高校生のフォロワー達から東大受験に関する相談を受けることがある。多くの質問は以下の三つに分類される。

「いったいどのような勉強をしていましたか」
「おすすめの参考書はありますか」
「併願校はどこでしたか」

せっかくだからここで僕の東大受験について記そうと思う。
僕が東大(理科一類)を受験をしたのは3年前のことだから振り返るには少し遅すぎる感もあるけれども、少しでも東大を目指す高校生の皆さんの役に立てば幸いである。



まず僕の受験環境について簡単に説明しておく。

僕は地方の私立中高一貫校に通っていた。毎年20人ほどが東大に合格する高校で、先生たちは成績の良い生徒に東大か国公立医学部を勧めていた。僕も中学3年生の頃から、「東大はどうか」と先生に勧められることがあったが、大学進学で地元を出る決心はつかなかった。

東大受験を決意したのは高校1年の夏、オープンキャンパスで東大を訪れたときだった。
折から先生に勧められていたこともあったし、当時はなんとなく「工学部に行って機械を作りたい」と考えていたので、工学系の研究を世界的にリードしている東大に進めば将来の道が開けそうだ、と判断したのだった。
それならば東工大や京大も選択肢に入ってよさそうだが、僕は敢えて志望を東大一本にした。
理由はあまり大したものではない。本郷キャンパスの雰囲気が気に入ったから、である。

東大に志望を固めたのちも、僕は特別な対策をすることはなかった。
僕の高校は毎年50人近く東大を受験するので、学校のカリキュラムが東大受験に最適化されていた。
普段の授業で東大の過去問を使用したり、放課後には東大受験生向けの補習が開講されたり、地方にしては貴重な環境だったと思う。
駿台全国模試や主要な東大模試は高校が団体申し込みをしてくれたので、早いうちから全国の東大受験生のレベルを知ることができた。
僕が塾通いをせず東大受験を無事合格で終えられたのは、ひとえに母校の制度によるところが大きい。


さて、僕に受験相談をしてくれる高校生たちにとっての問題は、彼らが地方に住んでいて、かつ高校から東大受験に十分な指導を受けられていないことである。
首都圏の名門校を含め、多くの高校は僕の母校ほど進路指導に積極的でないから、駿台や河合塾などの大手予備校がその役割を果たしているのだが、地方にはそのような大手予備校が無かったり、あったとしても実際に東大受験をする仲間が身近に少なく、東大受験に関する情報は不足しがちである。

では実際に僕が東大受験に際し学校から与えられた参考書や自分に課した勉強法を科目別に紹介しようと思う。
僕は理科一類を受験し、合格最低点の+20点ほどで合格した。合格者平均から見るとあまり良い出来ではなかったが、東大合格に最低限必要だった勉強法として参考にしていただきたい。


<英語>
僕が得意な科目だったが、東大の英語に関しては苦戦した。問題量に対して時間が足りなかった。
個人的な感想だが、東大英語はTOEFLやIELTSを意識して作成されているように感じる。つまり、受験者に膨大な量の課題を課して、時間内にどれだけ正確に答えられるかを試しているということだ。他の多くの試験ならば、時間が余るか答案を十分に検討する余裕が得られるが、東大英語について言えばそれはまず期待できない。

そこで必要になるのは「解ける問題を早く、確実に解く能力」である。

例えば自由英作文は得点源にしやすい。訓練をすれば60語程度の作文は難なくできるようになる。自由英作文が苦手なら、まずは課題英作文、与えられた文を齟齬なく日本語から英語に変換する訓練から始めよう。僕が高校生のあいだ、毎日数ページずつ何周か解いた英作文の参考書は『英文標準問題精講』だった。東大受験に必要な英作文能力はおそらくこれ一冊で十分だ。

東大英語には読解力も要される。たとえば、訳すべき文章は難解なものが多いし、並べ替え問題は構文に気付かなくてはいけない。構文を意識した英文解釈力は、一朝一夕では身につかない。読解力に問題をかかえている場合、『英文解釈教室』を解くことをお勧めする。かなり問題数が多く難しい文ばかりだから、一周するには最低でも一か月を要するだろう。しかし本書は、英語を学ぶ人間が一生のうちに知るべき構文が網羅されているといってよい。大学院入試の英語対策にこの本を使う人がいるほどである。

リスニングも大きな配点を占めるので対策は欠かせない。ただ東大リスニングは教材が少ないこともあって、勉強法は限られている。長い英語を聞く体力を身に着けよう。『キムタツの東大英語リスニング』を聴くと良いかもしれない。また、東大模試や過去問のリスニングCDをiPodやウォークマンに取り込み、暇なときに英語のまま理解できるまで聞き続けるという方法もあるだろう。


<数学>
苦手科目だったので、点数を稼ぐことは最初から考えていなかった。
ただ、東大数学とはいえ、教科書に載っているような基本的問題が必ず2問ほど含まれている。
これを解けるだけで40点は確保される。数学に対する理解が高く、他の科目は著しく苦手な受験生は数学でもっと高い点を獲得すべきだが、はっきり言って大問6問中2完(2問完答、の略)すれば致命傷にはならない。

黄チャートでもいいので、基本的な問題を確実に解けるようにしよう。とくに数III範囲で基本的問題が出題されやすい。積分を正確に実行する訓練を続けよう。

大学への数学』は高校で教えられる数学だけでは満足できない人に良いかもしれない。様々なレベルの良問が解ききれないほど多く掲載されていた。僕の周りで数学愛好者と言われる人は必ずこの雑誌を購読していたようだ。僕もたまに読んでいたが、一度ストラップが当たり名前が載ったことがある。高校の数学教師は「大学受験生にはオーバースペックじゃないかね」と言い推奨していなかったので、向き不向きが分かれる問題集(雑誌)と思われる。


<国語>
現代文については、正直何を対策すればよいのかわからない。普段から論理的に思考したり、評論を読んだりする癖をつければ良いのかもしれない。するにしても、疲れないよう、ほどほどに。

古文、漢文にはかならず語彙の意味を問う問題が含まれるので、それぞれ1冊は単語帳/句形集を用意して覚えていこう。先輩から譲ってもらったものでも、学校から配られたものでも、好きに選べばいい。本の名前は忘れたが、僕はくだらない挿絵がいっぱいの単語帳が気に入っていて、受験期によく笑わせてもらった。

東大理系はあまり国語で差がつかないと言われているので、国語に充てる勉強時間は高校から出される宿題や定期試験対策など、必要最低限にとどめてよいと思われる。むしろ他の教科に時間を費やすべきだろう。


<物理>
僕は東大物理ができなかった。物理の先生も諦めていたようである。
東大物理で得点したい人は『難系』あたりを解くと良いのかもしれない。 ちなみに僕は『難系』を持っていたものの全く開くことはなく、合格する頃には埃が積もっていた。
合格後、近所のブックオフで売った。


<化学>
東大化学は東大英語と性質が似ている。
問題数は非常に多く、難解なものもある。時間内にすべての問題を解ききることは難しい。
ここで必要とされるのは「解けそうな問題を見つけて、確実に解く」能力だろう。
逆に、時間をかけても解けない問題は早々に見切りをつける勇気も必要だ。

ところが、東大化学とはいえ、問題の半分は基本的問題である。
ある問題を見たとき即座にその解法を思い出せるようになるには、厳選した問題集を何回も根気よく解いて、全ての問題を正解できるまで続けよう。
僕は『セミナー化学』と『化学の新演習』がその役目を十分に果たしてくれると考える。
ある章を解いて出来なかった問題に印をつけ、テストまでに何周かしてすべての問題ができるようにする。数か月経ったら、もう一度すべて解きなおす。
『セミナー化学』だけであれ、この習慣を高校化学の全範囲について続ければ相当の実力になるはずだ。

もしそれだけで不安に感じるなら、無機など暗記分野についてだけ『化学重要問題集』など他の問題集を解き知識を増やすと良い。

化学の新研究』については大学で専門的に化学を学ぶ人々から賛否両論の声が上がっているが、大学受験の参考書としては名著だろう。
ただ、このレベルの参考書になると高校範囲を逸脱することがある。この本には教科書に書かれていないことばかり記されていて、却って混乱する人もいるだろう。解説が理解できなくても心配する必要はない。
本書は、近くに相談できる化学の先生がいて、前に挙げたような問題集をほぼ済ませた状況で解くのが望ましい。余裕がなければ解かなくてよい。


最後に、併願校について考えておこう。
地方出身者の場合、受験のために東京に行くだけで相当のお金がかかる。
また、併願校受験のためには受験直前期に時間を割かなくてはいけない。東大の二次対策に費したい時間を、行くつもりのない大学のために充てたくはなかった。
そこで僕は私立は1校も受験せず、前期・後期とも東大を志望した。

だが、実際そこまで踏ん切りのつく人ばかりではないだろう。
その場合、滑り止めの大学を2校程度受けるのが現実的だ。
志望校が多すぎれば受験費用、肉体的・精神的疲労はそのぶん大きくなる。
ある学校に落ちてしまったのち、精神的ショックで本来のパフォーマンスを発揮できなくなり、その後も将棋倒しで不合格を連発する人がいる。

「東大二次試験直前に受験したくないが、受験経験がない状態で東大を受けたくない」という人には、防衛医科大学校(防医)の一次試験を受けてみることをおすすめする。
一次試験は11月に各都道府県で行われ、受験料は無料だ。
この試験のレベルは東大理科一類・二類の難易度に近いとされる。
僕の学年についていえば、防医の合格者は全員東大に合格した。防医不合格者は東大にも合格しなかった。バロメーターとしては良い働きをしていた、と思う。
一次試験に合格しても二次試験(埼玉で行われる)の受験は任意であるから、東大受験生にとって不都合はない。



地方の東大受験生にとって一番の問題は、「東大受験について情報が足りない」ということに帰結する。

東京の受験生は家庭にお金さえあれば、鉄緑会やエミールに行って最高の東大対策を受けられる(もちろんそれを消化できるかは別問題だ)。
一方地方にはそのような「東大受験の王道」がないから、東大受験生はとにかく迷走しがちだ。
薦められるがまま参考書を買った結果解けずに終わったり、身の丈に合わない塾に通って時間を使い過ぎ、学校の勉強にすら追い付けなくなったりする。
誰かに相談しようにも、高校の先生や塾のチューターは東大の進路指導に疎く話にならないこともあるだろう。

大事なことは「正しいベクトルで勉強する」ことである。

ベクトルは向きと大きさから構成される。東大に向かうためには、もちろん勉強しなくてはいけない。
しかし、がむしゃらに勉強するだけでは不十分だ。
様々な人が様々な東大合格メソッドを主張するが、その中で自分に合いそうな方向を選択しなくてはいけない。
僕の経験上、多くの人が一致して主張することは真であることが多い。塾の先生、高校の先生、先輩、東大受験について出来る限り意見を集めて比較検討しよう。
そのなかで多くの人が主張する方法というのは、一般に王道と言われるものであり、確実に東大に至る道の一つである。



(↑僕が高校生のとき参考にしていた東大情報本の2015年版。東京大学新聞社が毎年出版している。 普段の東京大学新聞と違って役に立つ情報が多い。

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